その電気柵効いてます?

日々、鳥獣害対策のお仕事お疲れ様です。私は電気柵の仕事であちこち行きますが、これ本当に効いてるの? と思うような電気柵を見かけます。これから、知ってるようであまり知られていない電気柵というもののお話をします。私が知っている範囲の話です。間違っているところがあるかもしれません。間違いがありましたら、私自身勉強になりますので、ぜひお知らせください。

必要な電圧 電気柵の電圧は野生動物に対しては3,500V以上とか4,000V以上と言われます。確かにそうかもしれません。が、これまでの経験から、適切に電気柵を設置すれば、電圧は7,000Vを下回ることはありません。設置したばかりで7,000Vを下回るようなら、アースが効いていない場合がほとんどです。設置後、草が繁茂して電圧が下がりますが、経験的に5,000Vを下回るようなら、漏電を含め、どこかがおかしいと考えた方が良いです。4,000Vとか3,500Vというのは私の感覚では欠陥電気柵で、早急に手当てしないと侵入されます。電圧が4,500Vあったから大丈夫とお考えでしたら、おそらく大間違いです。3,500Vとか4,000Vという数字の学術的な根拠となった資料を探していますが、未だ見つけることができません。経験的なものなのでしょうか? もしご存じでしたらお知らせください。

 

漏電

毎年時期になると、電気柵の電圧が上がらないというお電話がかかってきます。大抵の方が電牧器の故障だと思って電話をしてこられるのですが、ひどい漏電かアースの不良が原因の場合がほとんどです。ひどい漏電というのは草の繁茂もですが、電話がかかってくるのは刈り払い後に電圧が上がらない場合が多く、何かの金属が柵線に触れている場合が多いです。金属は柵の周辺に普通は存在していないと思われるのですが、古い碍子がひび割れて、中のネジから漏電していたり、安価なビニル被覆の鋼管支柱(イボ竹など)に柵線が触れていて漏電している場合があります(以上の理由で、当社の簡易柵では金属入りの支柱は使用しません)。それから、鉄筋やビニルハウスのパイプにテープを巻いたりしておられる方がありますが、数千ボルトの電圧なのでテープを通して導通してしまっていることもあります。

 

アースは意識の彼方へ

電圧が上がらない原因として、アースが効いてない場合も非常に多いです。アースが重要だという事を、ほとんどの方がご存じなのですが、きちんと設置されている方はまずありません。多くの方が適当に設置すれば良いと考えておられるようです。家電製品で洗濯機や電子レンジなどアースが付属する物がありますが、アースを設置しなくても普通に動作するので、なんとなくアースは適当で良いような気がするからかもしれません。ところが、電気柵のアースはそれ自体が回路の一部で、アースが不十分だと、そこで回路が半分断線しているような状態になります。具体的には、草で漏電しているかのように、電圧が上がらないという症状が出ます。草を刈ったのに、電圧が十分に上がらない場合はまずアースを疑ってください。アースを素手で触って電気を感じるようなら、間違いなくアースの不良です。実際の計測の方法は、別紙に記載していますので、ご覧ください。ちなみに、アースの電圧が2,000Vあったとすると、電気柵の電圧が2,000V損していることになります。

これまでの経験から、手で引っ張って抜けるアースは十分に効いていないことが多いです。また、砂利や砂が多い土地はアースが効きにくい傾向がありますので、アースの本数を増やしてください。どうしてもダメな場合にはアースの増設は諦めて、電牧器を出力の大きな物と替える必要があるかもしれません。

 

エネルギー、単位はジュール

この業界に居て最も不思議なことは「出力エネルギー」(単位:ジュール;J)が話題に上がらないことです。獣害対策の専門家といわれる人でも知らない方がおられたりして、ニッポンの不思議です。電牧器の出力の強い弱いは出力エネルギー(単位:ジュール)で表します。ジュールという単位は、なじみがなくて分からないという人が多いのですが、電力(ワット)なら皆さんご存じではないでしょうか。エネルギー(ジュール)=電力(ワット)×時間(秒)で、1Jは1mlの水の温度を約0.24℃上げることができるエネルギー量です。カロリーで表すと、1J=0.24calです。1Jの出力の電牧器は0.24calの出力の電牧器とも言い換えられます。

電牧器各社のカタログには1万ボルトくらいの出力電圧が記載してありますが、不思議に思われたことはありませんか? 9,500Vもあるんだから、触ったら黒焦げになるんじゃ? 電流が少ないから大丈夫? それらを総合的に表す量がエネルギー(ジュール)です。いくら電圧が高くても、電流が少なければ衝撃は小さいのです。それから、出力の電流が少ないと、漏電や放電で途中で電気が抜けてしまいます。電流が十分にあれば、それだけ柵の距離を伸ばすことができるのです。一般的に、世界的に電牧の業界では、各社おおむね、出力エネルギー1Jに対して、理論値では10Km、実働では2Kmとか1マイルの電気柵を張ることができる。と記載されています(圃場の外周距離です、柵線の総延長距離ではありません)。

一般的には出力エネルギー1Jで実働距離2Kmですが、イノシシや小動物の電気柵の場合、最下段の柵線が低く、漏電しやすくなりますので、経験的に出力1Jで1Kmを目安にされたら良いと思います。メーカーによっては出力エネルギーではなく、電牧器が内部に貯める「備蓄エネルギー」をカタログに表示している場合があります。実際に出力される出力エネルギーは備蓄エネルギーの2/3程度になってしまいますので注意が必要です。電牧器の選定の際に「最大出力電圧」だけで、「出力エネルギー」を考慮しないということは、車でいえば、「最高速度」のみで、「排気量」は考慮しないのと同じです。そのためかどうか分かりませんが、広域に設置された電気柵で効いていないと思われる電気柵を目にします。排気量が足りず車が走らないのです。

 

電線には電気抵抗があるのです

もう一つ不思議なことは、電気柵の線に「電気抵抗値」が記載されていないことです。小さな圃場に電気柵を設置されるのでしたら、全く気にしなくて良いのですが、広域に電気柵を設置する場合には柵線の電気抵抗が全体の能力を大きく左右します。一般的に鉄に比べてステンレスは電気抵抗が高く、銅は低いです。ステンレスだけが撚り込まれたポリワイヤーは耐久性は高いですが、電気抵抗が高く長距離の電気柵には不向きです。電気抵抗が高いと、熱になってエネルギーが抜けてしまい。電牧器から遠いところでは低エネルギー(電圧が下がります)になります。柵線の電気抵抗が十分低ければ、電牧器から近いところでも遠いところでも電圧はそんなに変わりません。参考までに、当社のポリワイヤーでは、ステンレス線のみ4~6Ω/m、ステンレス線+銅線 0.05~0.2Ω/m、銅線のみ0.07~0.09Ω/m となっています。

電気抵抗が高い柵線と、出力エネルギーが小さい電牧器の組み合わせは、広域柵には向きません。

 

AED

近年公共施設に常備されているAED(自動体外式除細動器)の出力もジュールで表されており、AEDの出力は各社おおむね200Jです。200Jで除細動できなかった場合は自動判断して、次は300Jのエネルギーを出力します。それでもだめな場合は360J出力するようになっています。電牧器が中程度の物で出力1Jとか3Jとかなので、AEDの出力がいかに大きいかが分かります。ちなみに、ヨーロッパでは5J以上の電牧器は安全のため、異常な出力の場合は自動的にアラームを鳴らし、出力を下げるように法律で定められています。

 

 

 

 

4件のコメント

電気柵のアースが取りにくいほ場で既存の金網柵の支柱(金属製)にアースが繋いであるのを見かけました
地元の人に話を聞くと、石が多くてアース棒が少ししか入らないのだそうです
金網柵の支柱は重機で打ち込んであるのでそこそこ深くはいっているのだそうです。
どのくらい効いているか興味を持ったので、機会を見て電気柵の線の電圧を測ってみようと思います

コメント本当にありがとうございます。毎日のあれこれにかまけて、ここの欄に書き込みしないままになってしまっています。すみません。

金網柵の金属支柱をアースにするのは良い方法です。金網自体は深く地面に刺さっていなくても、数が多いのでよく効きます。ただ、金網が錆びてしまっていて(この場合の金網はワイヤーメッシュですが)隣の金網と導通が悪い場合はあまりアースとして効果が無い場合もあります。

アースは複数本を深く地面に打ち込むというのが基本ですが、臨機応変に対応する必要もあります。ここのところの乾燥した天候で、アースの効きが悪くなったりすることもあります。水を撒くと多少は回復しますが、場合によってはアースの追加などの対応が必要な場合もあるかも知れません。

アースは目立たない存在なので忘れられがちなのですが、アースの良し悪しは電気柵全体のパフォーマンスに大きな影響を与えます。特にこの時期は電気柵の電圧が上がらないのは雑草の繁茂だと考えがちですが、ぜひアースの電圧(アース-地面 間)を測ってみられることをおすすめします。

先週から農家の方たちに会う機会が多くあり、電気柵のアースの重要性と福留さんに教えていただいた結線の三つ編みの話をしてきました。
アースは皆さんなるほどと聞いていただきましたが三つ編みはやはりめんどくさいようでした。
せめて、見回ったときに結び目が焦げているところだけでもすればいいですよと伝えておきました。
京都の北部はまもなく稲刈りの時期を迎えるため、鹿とイノシシ、そしてサルが収穫物の調査に毎日毎晩出没しています。(泣)
電気柵の点検、頑張ります

いつもお疲れさんです。

「三つ編みはやはりめんどくさい」・・・それで良いと思います。個人様の圃場で普通はそこまでする必要はありません。
おっしゃるように、焦げたように変色しているところとか、パチパチとスパークしているところをその都度結び直していけば良いです。

三つ編み方式は確実に電気柵の柵線をつなぐための方法の一つで、集落など広域に長距離の電気柵を設置しておられる場合に実践して頂けたら、柵線の接続不良による電力降下を防ぐことができます。このような方法も有るということを知って頂き、必要になったときに使って頂けたらと思います。

特に、降雪がない地域で通年設置しておられる場合は最初に設置したときには、皆が関心を持ってメンテナンスしますが、数年経つと管理もおろそかになり、電線もだんだんと古くなって、あちこちで接続不良が発生します。そうなると管理される方もお手上げで、どこをどうしていい物やら、本当に困ってしまいます。集落などによっては、若いから電気のことはよく分かるだろうという理由だけで電気柵の管理者にさせられてしまい、困っておられる方もあろうかと思います。

そのような方ができるだけ安心して楽に管理して頂けるように、確実な接続方法として考えました。

今年の春に、管理者が少しでも楽をして頂けるように、「電気柵管理者キット」を作りました。
内容は、
1.C型クランプとそれをかしめるクリンピングツール・・・電気柵線を簡単に確実に接続します。結ぶ必要がないので、線の長さに余裕がなくても線を継ぎ足すことなく接続できます。
2.デジタルボルトメーター・・・広域の電気柵管理で必須のデジタル式電圧計です。アースの電圧を計測してアースの効きを判断することもできます。
3.バッテリーチェッカー・・・バッテリーの内部抵抗を計測して、バッテリーが劣化していないかどうか判断します。
4.ツールバッグ・・・これらを収納する手提げカバン、ハンマーやニッパーなども一緒に入れて、軽トラックの助手席にでも載せてください。

自分で言うのも何ですが、C型クランプとクリンピングツール、バッテリーチェッカーはかなりお安くご提供しています。某大手通販サイトより安いと思います。

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